死にがいを求めて生きているの(校正版)

僕が初めて読んだ朝井リョウの本が、MUTEのウミノさんに薦めていただいたエッセイ、「時をかけるゆとり」だった。

そんな朝井リョウが人間ドラマを描く長編小説。螺旋プロジェクトといって、8組の作家陣があるルールのもと、海族と山族というふたつの一族が対立する歴史を描いた競作企画のひとつだ。爆笑のエッセイ、「時をかけるゆとり」とは打って変わって、シリアスな内容。6人の視点で物語が進められるが、その登場人物の歩む人生や考え方が自分と重なり心に突き刺さる内容だった。

大学で音楽に主張を乗せるレイブと呼ばれる活動をする安藤与志樹。その活動をSNSにアップし、高校時代の同級生から反応があった。

「当時は自分を見下していただろうクラスメイトから、いいねがあった。…見返してやりたい。そんな気持ちの萌芽が顔を出した」

小さい頃から何をやってもうまくできなかった。うまくできない自分をみんなは馬鹿にして笑った。今に見ていろ、そんな感情が僕を支配するようになっていた。

「大して政治に興味がないくせにレイブやってたのって、生き生きとしてる自分を周囲に見せつけたかったからなんでしょ?」

いつも他人と比べていた。自分がどうであるかではなく、人がどう思うか?、そればかりを考えるようになっていた。

「李君の兵役を知ったとき、負けたって顔してた」

勝ち組、負け組という言葉が僕を支配した。とにかく僕は「勝ち」にこだわった。僕にとっては、勝っているか負けているか、それが大切になっていた。

番組の制作会社でうだつの上がらないディレクターとして働く弓削晃久。大学を卒業して就職せず、自分でドキュメンタリーを撮影し、成功を収める。

「大学を卒業するころ、これから社会に出る友人たちとは違い、すでに自分の能力が作品として評価されていた弓削は、周囲から一目置かれる存在だった。入社一年目から即戦力として働き続けていた弓削は、…などと愚痴る同級生たちに、一丁前にアドバイスを繰り出していた」

「今、かつての友人たちは多くの部下を抱える地位に就いている。弓削が今どんなものを撮っているかなんて、誰も興味を示していない」

誰よりも出世欲が強かった。いい大学を出て、マジメにしていれば普通に出世ができていたはずだった。どこで踏み外したのか?気付けば、周りは普通に出世しているのに、自分だけが取り残されていた。

小説に出てくる登場人物の考え方が、悩んでいる内容が、いちいち自分と比較される。自分だけではないのか?それとも、失敗を犯してしまう人間を描いた小説の登場人物がたまたま自分と同じような境遇だったのか?いずれにしても、それらの登場人物は転がる石のように、人生を転落していく結末を迎える。

どこかで見覚えのある風景。そうだ。池井戸潤の描く世界だ。池井戸潤の小説に出てくるサラリーマンも、同じように、社会のなかで、会社の中で出世や世間体に縛られ堕ちていく様が描かれる。

この本は奥深い。一度読んだだけでは理解できない深さがある。もう一度じっくり読みたい。自分のことをもう一度振り返る為にも。


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